この時期は春の作付け前ということで、日頃できない勉強もできる貴重な時です。そんなわけで先日、有機農業の一つのあり方であるCSA(地域支援型農業/Community Supported Agriculture)を知るために、東京の國學院大學で開かれたシンポジウムに参加しました。目的の一つは、初めに上映されたドキュメンタリー『大平農園 401年目の四季』を観ることでした。東京・世田谷の大平農園は、妻が住み込み研修でお世話になったです。そしてもう一つの目的は、日本ではまだ数少ないCSAを実践してきた神奈川県大和市のなないろ畑農場代表取締役の片柳義春さんのお話を聞くことでした。しかし残念ながら、片柳さんは去る1月20日に急逝されたということで、代わりに農場のメンバーの方からの発表を聞きました。
消費者も経営に参加する農場
日本の有機農業は、農家と消費者が直接やり取りをして、その季節にとれた農産物を田畑の都合に合わせて届けるという「提携」という形をとりながら発展してきました。その先駆けとなったのが、大平農園でした。「提携」の場合には、消費者は農作業を手伝う「援農もしくは縁農」に参加ずることも可能ですが、農園の経営には参加しません。しかし、なないろ畑農場のようにCSAの場合には、ただの消費者ではなく、資金を前払いし、経営に参加し、生産や収穫、出荷などの作業にも参加する生産消費者であることを前提としているそうです。市街地にあるからこそできることではないかと思いますが、片柳さんの著書の題名にもあるように「消費者も育つ農場」を目指すという取り組みはとても興味深いものです。この本をゆっくり読んで、参考にしたいと思っています。
有機農業はコミュニティをつくる
片柳さんは大変な熱弁家だそうで、ご本人のお話を聞けなかったことはとても残念でした。それでも、代わりにメンバーの方が片柳さんの作られたスライドを投影しながら説明されたので、片柳さんがなぜ有機農業を始め、なぜCSAという形にこだわったのかがわかりました。片柳さんは土の構造になぞらえて、「今は人が個々に分断され単粒化している。それが社会の様々な問題の根本にある。だから、個々をつなげて団粒化していかなければならない」「CSAの最大の産物はコミュニティなのだ」と説いたそうです。
片柳さんは農場の目標を「おいしい 楽しい 美しい」と表現していたと聞きました。これはわが家と同じだと思いました。まずは安全・安心と頭で考えるのではなく「おいしい」と素直に感じてほしい。わが家に来ていただくからには、たとえ大変な農作業を体験したとしても「楽しい」と感じてほしい。そして田畑の様子を風景として「美しい」と感じてほしい。そんなことを考えながら、わが家でも仕事をしているからです。しかし、関わりを持った人たちが感覚的にそう感じるようにしていくことを通して、今の社会でバラバラになってしまった人と人とのつながりを作り直そうとする社会的な活動であることを常に意識されていたことに共感を抱きました。私自身も、25年前に読んだ埼玉県小川町の有機農家・金子美登さんの著書『いのちを守る農場から』の中で、有機農業が社会のあり方を変えていく力を持っていると感じたことが就農のきっかけとなったことを思い出しました。
信頼を大切にするからつながりは深まる
わが家は、個人のご家庭やレストラン、保育園に直接お届けする「提携」を基本に暮らしています。「提携」にしてもCSAにしても、大切なことは、人と人との対等な信頼関係に基づいて直接につながり、季節ごとの農の恵みを共に分かち合うことです。CSAの場合には経営に参加するので、さらにリスクや責任も分かち合うことが求められる、ということになるのだと思います。
今は、セキュリティやプライバシーといった言葉が重視され、他人との間に垣根をつくったり、信用しないことを前提とした取引や仕組みが広がっています。そのことによって、人と人との関係は希薄になりがちです。しかし、「提携」やCSAはその逆で、人を信頼し、支えあおうとする取り組みなので、今の社会が向かっている方向を少しでも変えていくことにつながると思うのです。だから、流通業者を介して欲しい有機農産物を手に入れて、ただそれを食べるのとは違う意味があるのだと、私は思っています。
有機農家と直接つながる方法があることを知らなかったという方、このような食べものの求め方をはじめてみませんか。このような有機農家は、全国にいますよ。
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