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今では貴重な臼職人さんとの出会い

 11月に入り、そろそろ餅つきの準備をしなければと思い、杵と臼を出してみました。

すると、臼の割れが大きいだけでなく、段差ができていて手返しの時に指先が引っ掛かりけがをする危険性があることを思い出しました。あまりにも割れが大きくなっているので何とかしなければならないと思いつつも、臼を直せる職人さんなんてどこにいるのだろうかと思い、買い替えることを検討して臼を販売しているところをネット検索してみました。

 すると、つくった臼を販売するだけでなく、古い臼の修理もしてくれるという職人さんのホームページが見つかりました。割れを直したいと思い問合せしてみると、内側の大きな割れは接着剤を使わずに埋め木をしても取れてしまうので直すのは難しいということでしたが、段差ができているところを削り直すことならすぐにできますとの返事をいただきました。そこで早速臼を持参して直していただくことにしました。

 訪ねたのは、神奈川県藤沢市にある臼工房 柴田さんです。原木から手作業で削っていき臼をつくることのできる貴重な存在の職人さんで、今では関東で何人もいないとか。専用の道具を使ってすぐに削り直していただきました。そして臼づくりの道具や出来たばかりの臼を見せていただいたり、今の臼杵づくりの現場のお話をいろいろ聞くことができ、とても楽しい時間を過ごしました。割れの入った臼でも、水を貯めながら4、5日かけて少しずつ湿らせていくと割れがある程度は塞がってくるということを教わりました。

納得がいく仕事をしたいという職人魂


 臼工房 柴田さんでは、一つの臼をつくるのにおよそ3日かけるそうですが、今は何でも機械化の時代。臼や杵を量産している工房の場合には、木工旋盤という機械を使って削り、最後は電動工具のサンダーを使って仕上げるため、同じ大きさの臼を1日に2個もつくれるのだそうです。そのため価格はかなり安くなるのですが、表面の仕上がりが全然違うのだそうです。サンダー仕上げの場合にはざらつきが残り使っているうちにけば立ってきやすいけれども、かんなを使って仕上げたものは表面が滑らかで使い込んでもざらつきにくいということでした。確かに、わが家の臼はすでに40~50年は使っているようでひび割れはたくさんあるものの表面はなめらかです。「機械を使えば早いのはわかっているけれど、自分が納得できない仕事はしたくないんですよ」と柴田さんは笑って言いました。修理を頼まれる臼は、80年も使ってきたものだったり、嫁入り道具として持参したものっだったりと、持ち主の人生や思いが詰まったものも多いようです。

 「臼は逆さまにしてしまっておいた方が良い」という人もいるのですが、こうすると肝心の餅をつくところの表面にカビが生えるなどして傷みやすく、このような状態で農家の納屋に長く眠っていたものは傷みがひどくて削り直しても使えないものが多いということでした。でも、わが家の臼は幸いなことに上向きに置いていたため傷まなかったようです。一方、つくりたての臼はまだ木の水分がたくさん残っているためカビやすく、こちらの工房では塩を振ってカビを防ぎながら、注文したお客さんが餅をつく直前まで保管した上で届けているそうです。自分の仕事にこだわりと誇りを持ち、納得できる形でお客さんに渡したいというその姿勢は、わが家とも共通すると思いました。

農家を支える職人の技 

 臼づくりの道具も市販されているものではなく、野鍛冶職人(農具など重厚な刃物を専門に作る人)を探して使いやすいように作ってもらったという特注品です。今ではその職人さんも故人となったそうで、そのような道具をつくれる人も今では本当に貴重な存在になっているようです。杵、臼、鍬、鎌など農家にとって大事な農具はいろいろありますが、それらは職人さんたちの技に支えられています。

 しかし、農家が減るとともに機械化がますます進み、手道具を使う人がどんどんいなくなったため、このような職人さんたちも生業として続けることが困難になり、後継者を育てることができなくなってしまった現状は残念でなりません。このような道具を作り直すことのできる人もいつかはいなくなってしまうのでしょう。

 わが家の臼や杵、もち米を蒸すせいろなどは数十年前に職人さんが手作りしたものですが、いまだにしっかりして使えます。昔の職人さんの技の確かさに感謝しながら、文化財ともいうべきこれらの道具をこれからも大切に活かしていきたいと思います。私と同世代の臼工房 柴田さんには、またお世話になることもあるかもしれません。これからもご活躍いただきたいと思います。


*写真の臼の色が違っている部分が、削り直していただいたところです。まだ30年は使えるでしょうと言われました。80歳を過ぎるまで餅をつけるとは思いませんが、杵を持てなくなるまで使い続けようと思います。




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