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今年の「米騒動」から見える未来と  これからつくりだしたい未来

一過性ではない米不足

 この夏は、突然「米が手に入らない」という騒ぎが起きました。その原因として、昨年の猛暑で新潟などの産地で米の等級が下がり精米の流通量そのものが減ったことなどいろいろ言われていますが、農村で暮らす私たちから見ると、もっと根本的な事情が影響していると思います。

 わが家の周辺でも水田を耕す人が見つからないという現実が今年一気に噴出しました。同じことが、全国の農村で起きていることでしょう。島根県に暮らし、過疎地域の人口動態とその対策について研究している「持続可能な地域社会総合研所」所長の藤山浩氏は、男女年齢階層別の農業従事者数のデータからシュミレーションしたところ、日本全国で今後10年間に43.6%減とほぼ半減し、2020年に136万人だったものが2050年には8割減の26万人にまで減るという衝撃的な研究データを挙げて、次のように指摘しています。

 

「この現行推移によるシュミレーションは、文字通り、日本農業の「崩壊」を意味する。私が、島根や新潟をはじめ全国の農村現場を歩いた実感からしても、10年代から急速に耕作放棄地が増えており、暗たんたる気持ちになることが多い。「令和の米騒動」ともいうべきこの夏の米不足も、こうした生産基盤の弱体化が背景の一つだ。

 ウクライナ危機などやっと食料の安全保障の重要性が認識され始めたが、今後国際的な食料需給の逼迫(ひっぱく)や日本の経済力の衰え、そして地球温暖化に起因する異常気象などが十分に重なり得ることを考えると、日本全体の「飢え」も決して絵空事ではない。(9月16日付『日本農業新聞』1面コラム「論点」より抜粋)」


 また、コメ卸業界の団体である全国米穀販売事業共済協同組合が6月12日に、現状の農業の問題に何も手を打たなかった場合の最悪のシナリオを想定し、日本総合研究所と連携してまとめた試算の結果を発表しました。

 2040年の米の需要量が2020年と比べて41%減るとして375万トンとなり、一方生産量は2020年に比べて50%減り363万トンになるというのです。(6月13日付『日本農業新聞』1面記事「将来の米需要 国産で賄えず」)。人口減少に伴い米の需要量はどんどん低下していて、現在は毎年10万トンずつ減っているのですが、それを上回る勢いで稲作農家の高齢化や離農のため生産量が急減し、2030年代のうちに国内生産では需要を賄いきれなくなるというのです。

 

 この夏の米騒動は、全国各地の農家にも影響が及んでいます。新潟や北海道の大規模直販農家は、例年の1.5倍ほどの注文が入り、稲刈りの最中だったのを一旦作業を止めて新米の出荷に追われたそうです。そのため、在庫は収穫期の時点ですでに例年より減っているのだから、米不足は来年も起きるのではないかと心配していました。わが家の地元の直売所でも例年より新米が売れているようで、「お店からもっと出してくれと言われてももう米が無い」という農家もあります。

 このようなことから、来年も夏前から米不足になる可能性があるだけでなく、今後水田を耕作しきれなくなって生産量が減っていくことも、わが家の周辺の状況を見ると現実味を帯びています。


一年前に考え、今実現しつつあること

 1年前の『やぎ農園田んぼだより』12月号(お米の定期便とともにお届けしているたより)に、私は次のように書きました。

 

「最近では研修希望者が何人も訪ねてくるようになり、来春からは新たな研修生を迎えることになります。来年からは、そのような有機農業で暮らしたいと考えている若い人たちが少しでも不安少なく就農できる環境を整える仕事もしていきたいと考えています。 そのことによって、この地域でますます増えている耕作する人がいなくなった農地を有機農業で活かしていく道筋をつくっていきたいのです。

これまで私は、ひたすらプレーヤーとして田畑に張 り付くように仕事をしてきましたが、このままでは、自分たちができなくなったらそれで終わってします。そうならないように、その後を少しずつ引き継いでくれる人たちの活躍の場をつくりだしていくプレーヤー兼プロデューサーのような役割が、これからの私の役割ではないかと考えはじめ、有機農家になりたい人も本来のたべものを求める人も集まってくるような地域にするためにはどのような仕組みをつくりだしていったらいいのかと、勉強しながら検討しています。」

 

 その後、このような地域にしてゆく仕組みづくりをするため今年の正月にゆっくりNPO構想を練り、心当たりのある人たちに1人1人話して仲間をつくり、3月から話し合いと勉強会を重ねながら過ごしてきました。そして15人の役員体制の組織づくりが実現し、先日千葉県にNPO法人設立認証申請を行いました。来年2月初めには千葉県の認証を得て、正式にNPO法人を設立し、活動を開始します。


研修生たちのその後

 今年はまた、たくさんの研修生を受け入れるという、これまでにない経験をした年でもありました。3月から4人、4月から1人、6月から1人と合わせて6人が通ってきています。わが家の研修は、自給を土台とした有機農家の一年間を一緒に過ごしてもらうことを基本に、修了後は独立自営ができるように様々な体験ができるプログラムを用意しています。幸いなことに、6人の研修生は脱落することもなく、すでに耕作する予定の田畑が決まっている人もいて、皆就農に向けて準備を進める段階に入ろうとしています。

 今年は、耕作者を探している地主さんを訪ねて、研修生が就農するための農地をあっせんしたり、生活の拠点となる空き家を探したりと、今までにない取り組みもしてきました。振り返ると、この一年の間に、これまで抱いてきた思いを一気に具体化することができたと思います。


半農半Xということば

 「半農半X」ということばを聞いたことがあるでしょうか。半農半X」とは、「持続可能な農ある小さな暮らしをしつつ、天賦の才(個性や能力、特技など)を社会のために生かし、天職(X)を行う生き方、暮らし方」のことで、京都府綾部市の兼業農家に生まれた塩見直紀さんが1990年代半ば頃から提唱してきた概念です。塩見さんは私と同い年で、半農半X」ということばが生まれた1990年代半ばは、私が就農を決意した時期とも重なります。

 昔からある「兼業農家」と違うところは、ただ収入を得る手段として他の職業につくのではなく、その人の特技や能力を活かした天職、ラーフワークを大事にした生き方を目指すというところです。最近では、農水省の公式な文書にも使われるようになったり、島根県が新規就農の一つの形として積極的に支援したりと、社会的にも広く認知されるようになりました。

 私も妻も、かつては「半農半X」ということばに懐疑的でした。「半農」とは言うけれど、収入は他で得ているから農はおざなりにされているという印象を持っていたからです。私たちは毎日必死に農作業をこなすために苦労している。農業は生活の一部であり、しごとでもあり、生き方でもある。だから「全農全X」だ。「半農半X」だといって中途半端に農に関わればおざなりになるに決まっていると思っていました。

 でも、いつのころからか、少しずつ考えが変わりました。国の政策の誘導もあり、農業の大規模化、省力化ばかりが注目され、それと並行して田畑から人が減り、畔草刈りがおろそかになったり、用排水路の泥上げをする共同作業に80歳を過ぎた方が出てくるほど若い人が現場からいなくなっている現実がどんどん広がってきたからです。専業農家がどんどん法人化して暮らしと離れた産業になることは、かならずしも地域を守ることにはつながらないことを強く感じるようになりました。

 大事なのは、生業として農業で生計を立てられるかどうかではなく、その土地に愛着を持ち、地域の人たちと協力し合いながら、地域の環境と農地を丁寧に守っていく気持ちを持った人が増えることだと思ったのです。ですから、今はむしろ半農半X」志望の人は大事にしたいと考えています。現在わが家の研修生のうち2人は、半農半X志望の美容師と翻訳家です。


来年は希望を現実に変えていく出発点

 私自身も、来年からは、やぎ農園をこれまでどおりに経営していくと同時に、新たに「NPO法人ゆうき農園みよし村」を理事長として運営していくことになるため、農業+もう一つの事業というようなこれまで経験したことのない日々を送ることになります。NPO法人としても田んぼを借りて稲作を始めるためその責任者として携わることになりますし、初心者のための有機稲作入門講座も並行して4月から11月にかけて10回開催するなど、新規就農を考えている人たちをこの地域に呼び込むための様々なプログラムを予定しています。そのため、どのように時間を配分したらいいのか、農作業のやり繰りをしたらいいのか、まったく手探りになりますが、これまでの経験を最大限に活かして、何とか乗り切っていきたいと思います。

 来年は、意欲ある人たちが研修を終えて就農する年であり、地域の農地や環境を活かしてより良い未来にしていきたいという熱意を持った人たちが結集したNPO法人の活動が本格化する年でもあります。活気ある未来にしていくための第一歩の年として、希望を持って迎えたいと思います。来春には60代となりますが、もうしばらくは、これまで以上に多方面で活動していきます。

 今年もやぎ農園ブログをお読みいただきありがとうございました。良いお年をお迎えください。


*写真は、研修生たちとともに、放置された竹林から、稲刈りに使う竹材を伐り出しているところです。この作業を行っていると、集落の人たちが散歩の足を止めて立ち話をしながら見守り、とてもきれいになったと喜んでいます。地域の里山と稲作がこうしてつながることで水田と周囲の里山は心地よい空間として維持していくことができるのです。



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