百姓人生第2段階の出発点となった2024年
今年は私にとって50代最後の年です。研修生が集まるようになり一緒に作業を進めています。私自身が新規就農者としてもがきながら、何とか安定した暮らしと農園を築いてきた27年間、自らが百姓として生きられるようになることが目標だった時期を百姓人生第一段階とすると、今年からは、私の百姓人生第ニ段階が始まりました。6人の研修生を受け入れるとともに、今年のはじめからやぎ農園と関りの深い方々に呼びかけて、新規就農者を支援し地域の農地と里山を有機農業によって後世につないでいくためのNPO設立の相談も始めました。私にとって百姓人生の第2段階は、中継走者としての役割を十分に果たして、次の走者に確実にバトンを受け渡すことが目標です。
先輩方の姿を見ると、私の百姓生活は健康であればあと20年ほどあるだろうと思っています。やぎ農園を続けながら並行してNPO法人での活動も行うというのは全く経験のない思い切った取り組みですが、もうしばらくの間だけ頑張ってから少しずつ就農した人たちにわが家のしごとを引き継いでもらい、わが家は身軽になってゆくことが目標です。わが家にとっては長期「終活」計画です。
新規就農者と後継者の違い
研修生の人たちと話していて、その希望と悩みに、私自身のこれまでを重ねて考えました。私自身も、30歳の終わりに決断をして研修生活に入ったため大した貯えを持たずに就農し、農機具の数々を手に入れることですら苦労しました。要領の良い方ではないため、十分な収入を得ることができるようになるまでにずいぶん時間もかかりました。それでも、情熱だけは人一倍あったことが幸いし、跡取りのいない農家の養子となるご縁に恵まれたため、住宅も田んぼも相続することによって得ることができました。このようなことがなければ、今でも苦労が絶えなかったかもしれません。
新規就農者は、農機具だけでなく、農地も、住宅もあるいは倉庫や作業場もすべて確保していく必要があるのですから、わが家のような後継者とは歴然とした差があることを感じています。わが家は恵まれた立場にいるのだから、研修生たちが安心してこの地で暮らしていけるようにお手伝いするのが大事な役目なのだと改めて思います。
最近は、研修生たちが定住するのに大切な住居の確保のため、人づてに空き家情報を集めて紹介するという、今までやってこなかったことまで始めています。希望を持って就農したいと考えている人たちには、あらゆる面から支援をしていかなければならないときだと、つくづく感じています。
来春実現するNPO構想
私がNPO構想を抱いたのはもう数年前のことです。就農以来、長く有機農業の世界で生きてきて感じたことは、有機農業(最近言われるような、環境保全のためのとか、付加価値を付けるというものではなく、50年以上も前に世直し運動という意味合いで始められた)は人と人との信頼に基づくもので、だからこそ人の輪を広げる力があり、農と食について深く学ぶことができ、農作業に携わる人もとれた作物を食べる人も喜びを感じることができるということ、そして有機農業を続けることによって自らの暮らしが地域の環境と調和できるということです。そのような有機農業の良さを活かすことが、このままでは存続の危機を迎えてしまう可能性のある地域の農業に明るい光をもたらし、私たちがここで元気に生きてゆくための力になるのではないか。そんなことを漠然と考えていました。また、今や農業の問題は、農家や農業関係者だけで解決できるものではなく、いろいろな関心や職業的技術を持った住民と農家が共同して取り組むべき課題だとも考えていました。
いよいよ具体的に動き出そうと思ったきっかけは、昨年の秋以降、次々に研修を受けたいという人たちから相談を受け、有機農業を軸とした暮らしを求めている人が増えていることを実感したことです。もう一つは、わが家のような個人農家にも農薬を使わずに栽培したお米を求める人たちからの問い合わせや訪問が相次いだため、潜在的に求めている人が多いのに生産する農家があまりにも少ないことがわかり、需要は十分あることを確信したことです。
その後NPO構想はどんどん具体化してきました。私の呼びかけに対して固辞される方もいましたが、幸い賛同し参加したいという方が十分集まりました。3月から話し合いと勉強会を重ね、すでに組織の形はほぼできていて、今年12月には設立申請手続きに入り、来春には千葉県の認証を受けたうえで設立する予定で進めています。法人の名称は「ゆうき農園みよし村」に決まり、この地が、かつて有機農業の先駆地として全国に名を知られた三芳村だったことを名称に刻むことになりました。そして私は設立当初の理事長として事業を進めていくことになりました。有機農業の歴史とともに生きてきた先輩方から直接教えを受けた土地であることに誇りと愛着を感じています。
これまで設立に向けた話し合いを重ねてきましたが、最初に行ったのは、基本理念や活動の基本方針を決めることです。「ゆうき農園みよし村」の理念と活動方針をまとめたものは次の通りです。
いのちを育み健康の源である食とそれを支える農。この団体は、土の力と里山 の環境を活かして循環する農を実践すること、先人の知恵を継承するとともに、新規 就農者を含む生業としての農を支援すること、多様な農への関わり方を提示し、この 地域で農に関わる人の輪を広げてゆくこと、農体験を通し子どもにもおとなにも学び と発見の場を提供すること、農の楽しさ、収穫と味わう喜びにより心と身体を開放し、 笑顔あふれるコミュニティをつくることにより、先人たちの知恵と技を受け継いで、 地域の環境を活かした、暮らしにつながる農を支え、豊かで持続可能な地域づくりに 寄与することを目的とする。
ここで、「農業」ではなく「農」ということばを使ったのは、生業としない人も含めた幅広い関りが農地や農村を維持していくために必要だと考えているからです。現在、国の農業政策は、ある程度の経営規模や規模拡大意欲を持つ農家と農業法人を農業の「担い手」として優遇する一方、かつては当たり前だった兼業農家、自給的農家を度外視するようになっています。そのことが、ますます地域の人たちを農業から遠ざけているともいえます。だからこそ、生業にしたい人を応援するだけでなく、生業でない人も「農」に関わりやすくして、一緒に地域の農地や里山を守ることができる環境を整えることが大切になってきているのです。
設立当初は有機農業見学会、有機農業ワークキャンプ、有機稲作入門講座などを行って有機農業と新規就農への入り口を提供し、この地域に有機農業に携わり暮らす人を増やしていくことを目指します。その上で、新規就農者の農作業や販売を支援する事業、地域の竹林や農地を活かすための事業、地域内外の人の交流により南房総で有機農業への理解を深めていくための事業、さらには地域住民参加によりNPO法人としての農園の運営などを行い、農家ではないけれど農業に関わりたい人たちの力も活かしながら、ここ南房総で有機農業が広がるための条件づくりを進めていきたいと考えています。詳細は決まり次第お知らせしていきます。今後ゆうき農園みよし村の活動に関心をお寄せいただき、ご参加、ご支援をいただければ幸いです。お問合せは、下記のゆうき農園みよし村事務局までお願いいたします。
* お名前、ご住所、電話番号をお知らせくださった方には、NPO法人発足後にご入会や各種イベント、ご寄付先についてのご案内を 差し上げます。
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